トッピック ツタノハガイ科3

7 カサガイ Cellana mazatlandica (SOWERBY)
 本種は小笠原諸島の特産種で、満潮帯から飛沫帯の岩礁上に多産します。
学名はC. boninensis PILSBRY1891が、昔は使われており、boninensisは無人島、つまり古い小笠原の呼称でありわかりやすかったのですが、しかし、その後、C. nigrisquamata REEVE 1854、次いで現在の学名(1838)となっています。ただ、マザトランドはメキシコにあり、学名を付ける時に産地を誤認したと言われています。
 原色世界貝類図鑑 熱帯太平洋編(波部忠重・小菅貞男 1966)では、殻は大型で15cm内外ですが、10cmを超えるものは稀です。1968年6月26日に小笠原が日本の施政権下に復帰した時に測定した記録によると、平均殻長は、弟島37.7mm(測定個体数152、最大70mm)、母島東港59.1mm(測定個体数61、最大80mm)と意外に大きくありません(倉田洋二他 1969)。
小笠原諸島父島
 本種は1970年11月12日に天然記念物に指定されました。従って、本種の採集は禁止されています。このとき同時に指定されたのは、陸貝類(かたつむり類)とオガサワラセスジゲンゴロウ、オガサワラアメンボ、オガサワラクマバチ、オガサワラゼミです。
 指定された本種の生息域には北硫黄島が含まれています。北硫黄島は母島の南西約150Kmにありますが、北硫黄島でのカサガイの生息情報は少なく、記録に残る確認としては次の3例にすぎません。1979年6月に島の北西側で3個体(殻長96.8-97.5mm)、1986年7月に同じく北西側で1個体(殻長97.0mm)(西村和久 1987)、2003年6月南端の長根鼻で1個体(100.0mm)確認したにすぎません(米山純夫 2003)。北硫黄島には1944年6月の強制引き上げまでは2つの集落があり約90名の住民が生活していましたが、カサガイに関する情報は極めて乏しい。
 北硫黄島におけるカサガイの確認数が極めて少ないことから、再生産は行われておらず、母島等からの幼生補給によると考えられます。しかし、確認されたものはいずれも拡張10cm前後の大型個体であり、生息環境は適しています。今後、海流の変動などにより幼生補給が大量にあれば、生息数が急増することも考えられます(西村和久 2004)。


 父島のコンクリート護岸に着生するカサガイの群生(東京都
小笠原水産センター所長米山純夫氏提供)
 
北硫黄島のカサガイ(1986年7月:殻長97mm)
北硫黄島
カサガイの最大型(当館所有・殻長:95mm)
8 マツバガイ Cellana nigrolineata (REEVE)
 現在マツバガイの和名を使いますが、別名ウシノツメ(原色日本貝類図鑑 平瀬信太郎 1954)いわれます。
 殻表の模様は、青灰色の地に赤褐色の松葉模様(写真左)のものと細波状同心円模様(写真右))ものとの2形がありますが、ほとんどが松葉模様です。殻内面の筋痕に囲まれた部分は一部あざやかなだいだい色です。
 分布は大島から三宅島。八丈島の採集記録(葛西重雄 1982、加藤繁富 1997)、小笠原の採集記録(倉田洋二他 1969)はありますが、著者は採集していません。三宅島では、殻の大きさ30-40mmが多いが、1975年6月に86mmの大型のものを採集しています(手塚芳治)。
 なお、本館に所蔵する殻長90mm(伊豆大島産)のものは国内の最大記録と思われます。
 新島村役場で、トブネ遺跡から出土された本種が展示されていました(1993)。
 肉食性の貝(イボニシ等)に襲われると外套縁を素早く殻表まで広げて敵を追い落とします(海辺の生きもの 奥谷喬司 1994)。
 食用としては不味です。
マツバガイの最大型(当館所有・殻長:95mm)




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