トッピック ニシキウズ科(1)-3

ニシキウズ科
48.カイドウチグサ Cantharidus hirasei (PILSBRY)
 八丈島(葛西重雄1982)。チグサガイに似て小形、体層は円く、殻口軸唇も円く湾曲します。殻の内面は強い真珠光沢があります。チグサガイの種類には人名を付けたものが多い。本種の「カイドウ」は、平瀬與一郎の号「介堂」、後に記述されている「カネコ」は、長崎市の開業医金子一狼で日本貝類学会創立発起人の一人、「コマイ」は、駒井卓京都帝国大学名誉教授にそれぞれ献名されたものです。分布は房総半島、男鹿半島以南
49.チグサガイ Cantharidus japonicus A.ADAMUS
 伊豆諸島全域。円錐形で色彩は鮮紅色から帯緑褐色まで種々変異があり千種(ちぐさ)の名があります。また千種は、広辞苑(1991)では、種類の多いこと、色々様々の意味を言います。この仲間の分類は色彩模様に迷わされる種類です。分布は北海道南部、男鹿半島以南。
50.ミドリチグサ Cantharidus japonicus hiliaris (LISCHKE)
 八丈島(葛西重雄1968)。チグサガイに比べ、殻は小形で薄い。殻表の色彩は変化に富むが、螺状に細い色帯があります。分布は北海道南部、山口県北部以南。
51.ハナチグサ Cantharidus callichroa (PHILIPPI)
 伊豆諸島全域。チグサガイに似ていますが、螺塔は低く、螺層はより太く丸みを持っています。分布は北海道南部、男鹿半島以南。
52.カネコチグサ Kanekotrochus infuscatus (GOULD)
 小笠原父島水深84mより採集(福田宏1993)。表面底面共に顆粒状の螺状脈をめぐらす、色彩は帯白色の地に緑褐色の火焔模様があります。分布は房総半島、佐渡島以南。
53.コマイチグサ Komaitrochus pulcher KURODA & IW.TAKI
 八丈島(葛西重雄1982)。チグサガイに似ていますが小形、殻表に細かい金糸の縞があります。分布は東北地方、山口県北部以南。
54.オニノハ Tosatrochus attenuatus (JONAS) 
 チグサガイ類中の大型種。全面に紫褐色有色螺状脈があります。手塚芳治(1996)三宅島で生貝採集、本海域で唯一の記録と思えます。大里卓司(1996)小笠原で打上げ採集。分布は紀伊半島以南。(写真は手塚氏提供)
55.キバベニバイ Alcyna ocellata A.ADAMUS
 八丈島(葛西重雄1982)、小笠原父島宮の浜(福田宏 1993)。殻は小さく殻口軸唇に牙状の歯があります。写真は奥谷喬司(2000)。分布は房総半島、山形県沖以南。
56.ニシキウズ Trochu (Trochus) maculates LINNAEUS
 昭和62年(1987)頃、著者2度目の八丈島勤務(水産試験場)の折、三根神港沖でトコブシの潜水調査を行ったところ、岸寄りの大岩の密集する海底(水深5〜10m)に多産するのを確認しました。今まで打上げを含め、極めて採集しにくい貝と思っていたのですが、海底地形から打ちあがりにくい生息環境と理解しました。不思議なもので、わずか数メートル潜ることによって長年の疑問が解消した貝です。分布は駿河湾、九州北部以南。
57.アナアキウズ Trochu (Trochus) maculates verrucosus  GMELIN
 八丈島(葛西 1982)。ニシキウズに類似、螺層の膨らみが弱く、螺塔の輪郭は直線的で、周縁部は角ばり、殻底は完全に平面的になっています。現在学名はform verrucosusとなっており、ニシキウズの1タイプ。分布は紀伊半島、九州北部以南。
58.ムラサキウズ Trochu (Trochus) stellatus GMELIN
 八丈島、小笠原産は南西諸島に比べ殻高2cm前後と小形、本海域では分類の特徴が判然とせず分かりにくい種類ですが、宮古島八重干瀬で採集を行った時は、図鑑通りの標本に出会えました。私見ですが、分布の中心に近づくほど、分類の決め手となる特徴は鮮明となる一例です。分布は紀伊半島、九州南部、奄美、沖縄、小笠原、台湾。黒住(1994)マリアナ諸島で普通。
59.ハクシャウズ Trochu (Trochus) calcaratus SOUVERBIE
 三宅島(手塚 1996)、八丈島、小笠原。ウズイチモンジに似ていますが斑紋は下終層で拍車状褐色斑は大きく、特に殻口上面入り口に紅色の斑彩が出現するのが特長です。特に父島二見湾産の赤色は鮮やかで、多くの方々に贈呈しましたが、この赤色は数年にして薄れてしまいます。黒住(1994)マリアナ諸島で普通。分布は高知県沖、九州南部以南。
60.ウズイチモンジ Trochu (Trochus) sacellum rota  DANKER
 伊豆諸島諸島全域に多産しますが食用とはしません。分布は房総半島、能登半島以南。
61.タマムシウズ Trochu (Infundibulum) chloromphalus A.ADAMUS
 吉良哲明(1959)によれば、産地は小笠原・台湾の潮線岩礁上に生息します。殻形は、周縁角立ち表面底面共に顆粒螺脈をめぐらし、淡緑色の地に体層で褐色の大きな放射彩があります。擬臍孔内は凹みその周囲に鮮青色を塗り、軸唇はねじこまれて1歯が突起する、とあるが、著者は本種を特定出来ずにいます。写真は吉良哲明(1959)。分布は小笠原、台湾。
62.ギンタカハマ  Tectus (Tectus) pyramis (BORN)
 伊豆諸島から小笠原までと分布は広いが、漁業が成り立つほど棲息するのは八丈島のみです。1945年代の漁獲量35〜50トン、近年の最高は1965年18,782 kg。漁法は潜水器を使用。商品となるサイズは三根側沖の浅根に分布、素人のダイビングには危険を伴う海域です。潜水器を用いて漁獲します。
八丈管内漁業関連資料(1991)の水産加工の項では、八丈島よりも青ヶ島の水産加工の記録が早く、青ヶ島では明治9年(1881)に、鰹節215貫、海苔500枚、鰹塩辛90貫、鰹塩梅300貫の記録があり、八丈島での鰹節製造の記録は明治35年。昭和7年(1932)八丈島八重根の八丈製氷会社でK・H型ホームシーマ巻締缶詰の製造開始。昭和9年の八丈島水産加工製品の販売額は45,029円。内訳は鰹節24,180円、くさや16,920円、トコブシ缶詰2,250円、ギンタカハマ缶詰1,679円とあります。昭和25年ハワイから、トコブシを大量に欲しいとの情報があり、以前よりトコブシの缶詰化に努力してきた八丈興発鰍ヘ、ボイラー、巻締機等導入し近代的なトコブシ缶詰製造を開始しました。ただ、トコブシ・ギンタカハマの缶詰は漁獲量との関連で、近年は製造されていないようです。逆に「くさや」の生産が、その後、八丈島の特産品として伸長しました。
貝殻の活用では、昭和24年、渡辺権松・宮本由春・宮本茂雄等共同事業でボタン工場を設立しています。また、貝殻を塩酸で処理すると真珠層が現れ、美しい置物になり、著者はしばしば作成し、来島者の土産としました。
無論ギンタカハマは食用貝ですが、食べ方は茹でたあと、まな板等に貝の縁をトントンと打ちつけながら身を抜き出していく、この技術は意外に難しいもので、著者は満足に身が抜けたためしがありません。この難しさが、缶詰が珍重された要因の一つとも考えられます。
南方のサラサバテイを高瀬貝と称するのに対応し広瀬貝と呼ばれています。方言は八丈島でメットウ、新島等オサダ。殻径3〜4cmのものは潮間帯に生息しますが、形態は2型あり、背の高い型はコシダカギンタカハマに類似します。分布は房総半島、山口県北部以南。
   水揚げされたギンタカハマ
   簡易潜水機によるギンタカハマの採取(八丈島)
ギンタカハマのボタン製造
集められたギンタカハマ
中身を抜く
抜き打ち作業
抜かれたボタン
抜かれたボタン
抜かれたボタン
抜かれたボタン
ボタンを抜かれた殻
63.ベニシリダカ  Tectus (Tectus) conus (GMELIN)
 著者が八丈島に最初に勤務(八丈支庁)した昭和40年頃はギンタカハマ漁も盛んでした。そんな折、笹生一雄氏(前出:マキミゾエビス)に秘密の場所として、缶詰工場から出る貝殻の捨て場所を教えて頂きました。身を抜いても殻の中には残肉が残るわけで、捨て場は悪臭を放つため、人里離れた空き地で、しかも、しばしば捨て場が変わり、土地の人でないと、なかなか場所を見つけることは至難でした。この時期には貝ボタンの製造も行われておらず、大型のギンタカハマの標本が手に入ることはむろんですが、一緒に色々の貝が混ざっていました。特に、目を引いたのがベニシリダカで、幾つも採集しましたが、この貝は缶詰には利用されなかったようで蓋付のまま腐っている個体が多くありました。今思い出しても、この貝をギンタカハマのように食べた記憶が無く、多分身を抜き出すことが難しいためかと思われます。八丈島方言アカメットウ。分布は紀伊半島、九州北部以南。
64.サラサバテイ  Tectus (Rochia) maximus (PHILIPPI)
 小笠原(遠山宣雄 1937、倉田洋二 1969)。ギンタカハマより大型。この貝の思い出では、昭和40年代はじめ、本図録の共著者であり、当館の館長である三木誠氏から新婚旅行のお土産として、大型の本種を頂戴したことがあります。この時代は、まだ海外に採集に出掛けるのが困難な時代だっただけに有り難く頂戴しました。戦前(第2次世界大戦)は、南洋諸島、サイパン・パラオ等との人的交流は頻繁で、戦後、これらの島から引上げてきた方々が飾り物として持ち帰った事例も多く見ており、生貝を確認するまでは、棲息に疑問符が付く貝でした。分布は奄美諸島以南。著者が生貝を手に入れたのは、沖縄が日本に復帰(1972年5月15日)後、石垣島・宮古島・西表島等での採集旅行でした。
65ナツモモ  Clanculus margaritarius (PHILIPPI)
 八丈島、小笠原、南硫黄島、岩礁域潮間帯に多産。大変可愛らしい貝です。小笠原産は小形。軟体部にも殻表同様の黒点があります(奥谷喬司 2006)が、著者はそこまで確認したことがありません。岡本一豊(1997)は、本種の和名について、漢字で夏桃、揚梅と書くが、貝から桃の連想は出来ず無関係ではないか、揚梅は、中国語ではヤマモモのことで、暖地の山に自生する常緑高木で、夏季に暗紅紫色の実をつける、この貝は赤くて顆粒で被われており、ヤマモモの実にぴったりの和名である。ヤマモモの実が夏に熟するのでナツモモといったのかも知れないとしています。ヤマモモは八丈島ではヨーモーと言い、子供が良く食べていますが、今は都心の団地でも見かける樹木です。ただ、今の子供は食べないので、実が熟した後に落下し舗装された歩道などを紫色に染めています。分布は房総半島、能登半島以南。
66.ウスイロナツモモ  Clanculus clanguloides (WOOD)
 八丈島(葛西重雄 1968)。殻高はナツモモより低く、螺層は丸みを帯びています。色彩は淡赤褐色の地に横長の黒褐色と白の波線模様が並ぶ。写真は奄美大島土浜産。分布は九州南部以南。
67.ベニエビス  Clanculus gemmulifer PILSBLY
 三宅島(手塚芳治 1996)、八丈島(葛西重雄 1968)、小笠原(大里卓司 1978)。本種は続原色日本貝類図鑑(波部忠重 1961)に写真があります。ナツモモに似るが殻は小さく、体層の周縁に角があり、殻底は平ら、赤褐色の地に黒点を散らすとありましが、査定しにくい貝です。城政子・川瀬基弘(2004)の図版でも分かりにくい。分布は九州西岸、潮間帯〜水深30mの岩礁地。写真は三宅島産。(写真は手塚氏提供)
68.シロナツモモ  Clanculus gemmulifer pallidus PILSBLY
  八丈島(葛西重雄 1968)、小笠原(福田宏 1993)。放射状に並ぶ黒点列も前後は白い。写真は奄美大島土浜産。分布は紀伊半島以南。
69.イチゴナツモモ  Clanculus puniceus (PHILIPPI)
 本種は、本図録に載せるのは不似合いの貝で、インド洋に生息する美麗な貝です。この貝を1980年に、八丈島に住む桜井衛氏が垂戸で、同じく石井正徳氏が石積鼻で採集しています(葛西重雄1982)。なお、学名はテイオウナツモモガイ(東アフリカ)のC.Pharaoniusになっています。日本には生息しない貝なので、人為的に運ばれたものと考えられますが、誰が八丈島まで、わざわざ捨てに来たのか、前出のオーストラリアトコブシの例もあり、経緯が分かればと思っています。不思議な貝です。
70.テツイロナツモモ  Clanculus (Mesoclanculus)  denticulatus (GRAY)
 小笠原・硫黄島に普通。クロマキアゲエビスに似ていますが、螺肋は同じ位の太さで密。分布は種子島・屋久島以南。
71.クロマキアゲエビス  Clanculus (Mesoclanculus)  microdon (A.ADAMUS)
 福田宏(1995)は、小笠原(草苅正 1985)の記録をテツイロナツモモとしています。黒色時に黄色斑があります。螺肋は太く、肋間の幅は肋の太さと同じくらい。分布は房総半島、山形県南部以南。
72.カブトナツモモ  Clanculus (Mesoclanculus) microdon (A.ADAMUS) var
 小笠原の磯に多産します。大山桂命名。本種を、福田宏(1993)は、テツイロナツモモの地方型としています。
73.コマキアゲエビス  Clanculus (Eucheliclanculus) bronni  (DUNKER)
 八丈島船戸鼻打上げ採集。福田宏(1993)は、小笠原で採集。殻表に螺肋があり、黒褐色斑があります。殻口の軸唇には強い歯があります。分布は相模湾以南。(写真は手塚氏提供)
74.コシタカヘソワゴマ Pseudtalopia sakuraii HABE
 大里卓司(1996)小笠原で採集。淡褐色の地に肋上が濃褐色に染まりまだら模様を示します。分布は房総半島以南。写真はフィリッピンの水深約300mで採集。
75.イボキサゴ Umbonium (Suchium) moniliferum (LAMARCK)
 三宅島(1969)、八丈島(1971)にて死殻採集しましたが、棲息したものかは不明。
76.キサゴ  Umbonium (Suchium) costatum (KIENER)
 新島(五十嵐正治 1952)。吉良哲明(1959)は、キサゴとイボキサゴについて次のように記述。@キサゴは長径35mm以上に大成するが、イボキサゴは20mm以下を普通とする。Aキサゴの棲息水深はやや深く外洋性、イボキサゴは棲息水深が甚だ浅く内湾性。Bキサゴは臍域狭く、イボキサゴは広く約2倍に拡がる。Cキサゴはその色斑紋が殆ど一定して単に濃淡差あるのみであるが、イボキサゴは斑紋に多くの変化あり、且つ地色も赤褐色より藍黒色まで雑多である。
77.ダンベイキサゴ  Umbonium (Suchium) giganteum (LESSON)
 八丈島石積鼻1個体(葛西重雄 1982)。大型で径45mmを越えることも珍しくありません。色は藍黒色が多いが変化すします。斑紋は縫合下に放射短彩があります。本海域の生息は疑問です。本種については、著者が東京水産大学(現東京海洋大学)の学生の時、同級生数名で本種を大量に採集し貝類学教室で計測を行ったことがあります。その折、色彩・模様で明らかに区分け出来るグループがあり、これは新種で、名前は「ゴンベイキサゴ」とまで決めていました。後日、丹治経治教官から、「色に惑わされてはいかん」とご教示された思い出がある懐かしい貝です。分布は本州中部以南。本海域での棲息は疑問。
78.タイワンキサゴ  Umbonium (Suchium) suturale (LAMARCK)
 八丈島(草苅正 1996)。キサゴに比べて、殻表の細い螺溝は少なく3本内外。分布は和歌山県以南。本海域での棲息は疑問。
79.キサゴモドキ  Ethalia guamensis selenomphala PILSBLY
 小笠原父島二見湾42m、死殻4個体(福田宏 1993)、別名ニシキキサゴ。殻表は平滑で光沢があります。色の変化は多く、赤褐色から灰褐色の雲状又は更紗模様があります。写真は和歌山県串本沖ドレッジで採集。分布は本州南部以南。




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