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本図録は、拙著「伊豆・小笠原諸島海域における貝類分布」(1999)の図版という立場で記述を行っており、最新の図鑑と区分けがことなる部分もあります。
ニシキウズ科はニシキウズ超科という大きなグループの一つで、ウミコハクガイ科、イトカケシタダミ科、ヒメカタベ科、ホウシュエビス科、ニシキウズ科、ヒメアワビ科、カタベガイ科、リュウテン科、サラサバイ科、ベニバイ科からなっていますが、奥谷(2000)では、ニシキウズ超科はニシキウズ科、ワタゾコシタダミ科、サザエ(リュウテン)科からなり、ホウシュエビスは超科あつかいにしています。また、ヒメアワビ科はニシキウズ科に、ヒメカタベ・カタベガイ・サラサバイ・ベニバイ科はサザエ科にまとめられています。シリーズ6はニシキウズ超科とするのが正しいが、いままでの様式に従い「ニシキウズ科」としてあることをご了承願います。
ただ、馴染みの深いサザエ等を含む「リュウテン科」はサラサバイ科、ベニバイ科を含めシリーズ7とする予定です。
今回取り上げるウミコハクガイ科・イトカケシタダミ科は微小な貝です。貝の大きさを表示したので、ご認識願います。
これら微小貝の採集は、砂浜に寝そべって丹念に砂の中をピンセットで探るか、砂を持ち帰り、拡大鏡の下で選り分ける等の方法が必要です。ただ、よほど時間に余裕の有る場合を除き、砂浜で何時間も寝そべっている採集方法は不可能です。
そこで、貝のありそうな場所の砂を袋に入れ自宅に持ち帰るのが一般的です。コレクター仲間では、どこの砂浜の砂に貝が多く含まれているかの情報があり、特に奄美大島は有名です。
しかし、自宅で砂から貝を分離しても小さな貝は、名前の分からないものが多、著者はまず砂中の貝を分離し、退職し、時間を持て余すようになってから整理しようと考えていましたが、いざ退職してみると視力が落ちており、これらの貝の整理は前途多難です。
ホウシュエビス科は深海性の貝であり、大学や国立水産研究所等の調査船で採集されています。従って一般コレクターで標本を所有する人は少ないと思います。
ウミコハクガイ科・イトカケシタダミ科は、貝殻が小さく、写真撮影が難しい事、ホウシュエビス科は所有者が限定される事から、この3科については、既存の文献に頼る事となってしまいました。
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(ウミコハクガイ科またはワタゾコシタダミ科) |
1.ミカガミシタダミ Cyclostremiscus emeryi (LADD)
福田宏(1993)小笠原父島宮の浜で死殻採集。殻長0.7mm 殻径0.3mm 福田新称。体層に7本の螺肋があります。ビキニ環礁・ハワイおよび八丈島から報告があるとしていますが、著者は八丈島の報告書を見ていません。
なお、シタダミとは、漢字で細螺・小螺と書き、殻高の低い小型の巻貝をさしていう古語。
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2.ミツカドオトギノスガイ Leucorynchia tricarinata MELVILL & STANDEN
福田宏(1993)小笠原父島宮の浜死殻7個体、二見湾50m死殻1個体、母島桐浜死殻4個体採集。殻長1.5mm 殻径2.7mm、殻は白色、薄質で、周縁に3本の螺肋があります。分布は奄美大島以南とされています。著者は奄美大島の砂の中から採集しました。
「オトギノ」については、岡本正豊(1997)が二枚貝、オトギノワシノハ(お伽の鷲の羽)で、次のように述べています。小形を表す貝の和名の慣習語は、一般に小さいものを指す時に冠するコ(小)、ヒメ(姫)、ヒナ(雛)、チゴ(稚児)、チビ(矮)、マメ(豆)、ミジン(微塵)などでしたが、日向上江村産の化石で記載されたこの種の現生貝が海から得られた時、小形を表す新しい和名として「お伽の」と名付けられました。 他にオトギノスガイ・オトギノハナシガイがあります。
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3.ツキヨシタダミ Crossea miranda A.ADAMUS
土田英治(1991)銭州104-160mで死殻2個体採集。殻長1.5mm 殻径1.3mm 本種は非常に発達した縦張肋が表れることや、螺管が体層後半で遊離することが主な特徴ですが、銭洲の標本は、その特徴が現れない幼貝であり、著者には査定が困難です。分布は潮岬沖、若狭湾、山口県見島沖、五島列島など。写真下段は奥谷(2000)
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4.ワダチシタダミ Munditiella ammonoceras (A.ADAMS)
八丈島底土サンドポンプ、母島揚げ砂にて採集。福田宏(1993)父島二見湾にて採集。殻長2,5mm 本種は著者目録ではイソマイマイ科に記述してますが本科に変更します。
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(イトカケシタダミ科) |
1.クルマシタダミ Pondorbis rotella OYAMA
大山桂(1953)八丈島で採集を行った時、砂の中から洗い出した微小種、大きさは殻高0.35mm 殻径0.7mm。新種として発表。円段形で不透明、螺塔は全く平巻、体層は大きく殻の大部分を占め間隔のある縦肋があります。本種ならびにカブトシタダミ、イトカケシタダミは謄写印刷の同好会誌「ゆめ蛤」に発表されたものです。標本写真の掲載された図鑑は無いようです。
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2.ミジンイトカケシタダミ Pondorbis japonicus ANDO & HABE
福田宏(1993)小笠原父島宮の浜死殻1個体、ジョンビーチのタイドプールで生貝4個体採集。殻長0.5mm 殻径0.3mm 安藤保二・波部忠重(1980)新種・新称として発表。殻は微小、白色半透明、薄質。螺塔は低くほとんど平巻。螺層は3階、はじめの1階半は胎殻で平滑で光沢があります。残り1階半は著しい糸掛状の細い螺肋があります。臍孔は広く開き殻頂きまで見えます。著者は奄美大島の砂の中から採集しました。
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3.カブトシタダミ Lodderia fuscocepha OYAMA
大山桂(1953)八丈島で採集を行った時、砂の中から洗い出した微小種。大きさは殻高0.8mm 殻径0.8mm。新種として発表。殻は低い独楽形で、不透明、体層は大きく、丸まり、強い竜骨状の螺脈をめぐらす。
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4.ミジンカブトシタダミ Lophocochlias minutissima (PILSBRY)
福田宏(1993)小笠原父島二業地で採集。殻長0.7mm殻径0.8mm 本種はハワイからの報告があります。
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5.イトカケシタダミ Brookula nipponica OYAMA
大山桂(1953)八丈島で採集を行った時、砂の中から洗い出した微小種、大きさは殻高0.6mm 殻径0.8mm。新種として発表。独楽形で薄く半透明、螺塔はやや高く、凸円錐形、螺層は良くふくれ、縫合は深く、彫刻は」やや間隔をおいた縦肋が卓越。本種の彫刻や臍の特徴はイトカケ類に多少の共通性があります。
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(ヒメカタベ科) |
1.リュウキュウヒメカタベ Liotina peronii (KIENER))
八丈島石積・小笠原打上げ採集、小笠原では普通種。殻幅10mm、螺肋は周縁2本が強く縦肋と交差して格子状となります。著者の目録ではチリメンヒメカタベとありますが、殻底をめぐる孔列がありリュウキュウヒメカタベです。
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2.ヒメカタベ Liotina (Liotinaria) semiclathratula (SCHRENCK)
八丈島(葛西重雄 1982)、小笠原父島84m(福田宏 1993)、殻幅5mm、殻は低平、螺肋と縦肋で粗い格子状となります。
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3.オガサワラヒメカタベ Liotina sp.
山下小次郎(1994)新称。小笠原サンゴ漁場産とあり水深は100m以深か。大きさは殻高4mmの死貝、体層に6本の螺肋があり縦肋と交差し棘状となります。臍孔は開き、周囲に孔列を生じます。体層腹側に1本淡褐色のラインを有するが、生貝でないので体色は不明。全体的にはリュウキュウヒメカタベに似ています。
また、小笠原父島宮の浜死殻1個体をLiotinaria sp.として、福田宏(1995)が報告しています。同じsp.であっても違う貝です。(写真下段)
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4.ハグルマヒメカタベ Dentarena loculosa(GOULD)
八丈島・小笠原打上げ採集、小笠原では普通種。殻幅10mm、殻は平巻き状で白色、周縁は歯車状となっています。形のきれいな貝。
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(ホウシュエビス科) |
1.ソウヨウリュウグウエビス Basilissa soyoae OKUTANI
奥谷喬司(1964)鳥島沖水深2280mにて死殻1個体採集。殻長4.6mm 殻径6.5mm
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2.シロガネリュウグウエビス Basilissa superba WATOSON
1985年、水深3,800m生貝1個。父島二見港に入港した調査船より譲渡。殻長2.2cm 殻径2cm。本種は奥谷喬司(1982)新称。
本種は標本の傷みが早く、縦肋(次体層125本)と螺肋(体層15-20本)が交わり布目状となっていますが、拡大部分写真に示すように標本ケースの中で表層が剥離してしまいました。この様な種類の標本管理は難しいものです。
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3.ハリクルマガイ Fluxinella vitrea (OKUTANI)
奥谷喬司(1968)三宅島〜ベヨネーズ列岩沖、水深1,100-2,100mにて採集。殻長3.1mm 殻径7.3mm レンズ形。
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